専門家に聞く「価値観の違いを超える」関係性をつくるシリーズ。
第3回目にご協力下さったのは、グループ・プロセス・コンサルタントとして人を大切に組織のチームビルディングの支援をしていらっしゃる中里高宏さんです。
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今回は、チームビルディングのエキスパートとして夫婦関係づくりに活きるお話を伺いました。
中里高宏さん
グループ・プロセス・コンサルタント
「対話の窓口」にて「自分を・共に働く仲間を・組織を」大切にイキイキと働くための組織づくりを支援
「Narrative Therapy Style Cafe」主催
ー中里さんは主にチームビルディングに関する専門家でいらっしゃいます。今日は、その知見やご経験から、夫婦関係のつくり方についてのお話をいただけたらと思います。
ーはじめに、自己紹介からお願いできますか?
今は、一番のメインの仕事は子育てです。「中2の娘の父親」であることを含め、主な仕事としてはリーダーシップが専門で、その知識を使って社会貢献をしてる人でもあります。
なぜ中2の娘の父親がメインの仕事かというと、7年前に病気で妻を亡くしているという理由があって。娘にとっては唯一の親になってしまったので、「しっかり娘を成人まで育てられるかが私にかかっている!仕事なんかしてる場合じゃない」と思うことも本音であるからです。
そうはいっても、経済的な理由や社会責任みたいなものもあるので、リーダーシップというものを使って社会貢献をするという仕事もしている人、とも伝えています。
リーダーシップとは
―お子さんへの愛が伝わります。
「リーダーシップ×社会貢献」についてもう少し教えていただけますか?
リーダーシップと聞くと皆さんは、チームの中のスーパースター的なヒーロー的なリーダー的な人が1人でチームをグイグイ引っ張っていく印象があると思います。
かつては日本でもそういうタイプのリーダーがリーダーシップを発揮してチームを引っ張るという時代がありました。
私がリーダーシップに興味を持った理由でもありますが、勉強をしてみたら「全く違う考え方」もあるということを知って結構衝撃を受けたんですね。
チームのためにする一人一人の行動がリーダーシップ
それは、チームの1人1人が「チームのために何かを考えてする行動」がリーダーシップで、その瞬間でその行動を数多く発揮してる人がたまたまリーダーと呼ばれる人、という考え方です。シェアードリーダーシップという言い方もします。
その考え方に出会ったときに、今後日本社会はこういった考え方で、リーダーシップをチームに所属する全員が発揮していかないと成り立たない社会になるというようなことをその当時考えました。
そこで勉強を始め、気が付けばそれを伝える人になっていたという感じです。
「チームメイト全員がリーダーシップを発揮する」とは?
ー中里さんの歩みとともに、「全員がリーダーシップを発揮する」ということを具体的に教えていただけますか?
チームの全員が集中して取り組まないと達成できないような、チームが「見える」ような講座のお話をしようと思います。
会社の中で研修を考える人になったときに、今までの座学に疑問を持ち様々なところに話を聞きに行きました。そのとき「体験学習」というものに出会い、これがすごく役に立つなと。
たとえば、古典的なものとしてご存じかもしれませんが、フラフープの端をチーム全員の人差し指にのせます。それを「せーの!」で全員で上に持ち上げていきますが、うまくいかないんですよね。
「このフラフープを上げるぞ」と全員が意識を統一してチームワークをとらないと上がらない設計になっています。
あるリーダーだけが「俺に任せろ!」とあげてもフラフープは均等に上がっていかない。一人が頑張りすぎて上げても他の人が追いつけずに、ぎったんばっこんしちゃうんですよね。
つまり、「チームのために何ができるか」を考えて実行していかないと成り立たない。社会も今後そうなっていくと思い、専門的に学ぶ価値を感じました。
―なるほど!確かにそうですね。「チームメイト全員がチームのためにできることを考える」ことがイメージできました。どちらか一人だけが頑張ってもうまくいかない夫婦関係とも重なりました。
体験学習エキスパートの道を開いた、娘さんの衝撃的な一言とは?!
―その後、どのようにチーム支援をされてきたのですか?
実はその後、転職をして研修とは関係のないアパレル関係の仕事をしていたのですが、娘の出産に立ち会ったり、育児に専門的に関わりたいと思って、自宅で出来る仕事という形で独立をしました。
すると、しばらくしたある日突然、娘に「なんでパパは会社に行かないの?」と言われました。
娘は覚えていないようですが、言われた瞬間に“これはちょっとスーツを着て働く姿も見せなきゃ”と考えてその仕事は売却をして、体験学習を使ったコンサルティングをしている会社があって応募をしたところ「面白すぎる」と採用してくれました。
その会社が転職サイトに広告を出したのは後にも先にも1度きりでしたが、それを見たんですよね。
その会社に世界中の体験学習にまつわるものが集まっていたので勉強し放題で、人材育成にのめり込みました。
そこで各会社さんの研修を組み立て、提案できるようになり、お客さんに育ててもらってエキスパートになれたのかなと。そして、全国各地に呼ばれたり、講演などもやるようになりました。
―まさかの展開に驚きました(笑)
娘さんの一言から、必然に思える偶然の求人との出会いを経て今があるとは!
結婚生活にもリンクする人材育成4か年構想
そして当時、私は入社前~新入社員研修のあともフォローアップが必要という「4ヶ年構想」を訴えていました。
キャリア形成がしっかりできないまま現場に置きっぱなしにしてしまうと、だいたい3年目くらいで、帰属意識とかキャリアがその会社で築けないとなると転職を考えてしまいます。
―なるほど。4か年構想は、夫婦関係にもリンクするように思います。
結婚も同様でお互いに価値観を理解したり、すり合わせ方も学んでおいた方がいいと思っています。
そして、1,2、3年目…と過ごすうちに、お互いに意識がすれ違ようになって転職ならぬ離婚…とならないように、結婚後もお互いの意識やスキルを見直し合う機会の必要性を感じています。
そうですね。育った環境が全く違う中で同じチームになっていく夫婦も同じことがいえると思います。
結婚生活とチームワーク
結婚はチームビルディングのスタート地点
―夫婦をチーム作りという観点で見るといかがでしょうか?
夫婦もそれぞれ別々の家族に所属していたところから、お付き合いが始まって、意気投合して結婚。そして、チームになったら、今この瞬間のことも考えないといけないし、将来的な目標やビジョンのようなものが出てくると思います。
もちろん、付き合っている段階や婚約期にもぼんやり考えていたとは思いますが、チームになったら、本当に細かい話とか仕事をどうするかとか、老後のことも日々、更新しながら夫婦はチームを運営していく必要があると思います。
だけど意外と、そこが話せてるようで
「どこまで夫婦という組織は話せてるんだろうか」
と考えると、
お互いにそれぞれのビジョンは持っていても、パートナーのビジョンをどこまで知っているかとか、共有できてるのか
やり方は人それぞれと言いますが、本当に大事なところを共有しなければいけないところができてるようで、できてない夫婦もいるんじゃないかと思います。
チームを作る専門家の観点からチーム最小単位の2人というチームを見ると、熱の頂点が極まって結婚するけれどそこはゴールではなくて、チームビルディングをして夫婦というチームを結成していかないといけないスタートという感覚です。
夫婦の平穏な日々は「チームワーク」の賜物
「チームワーク」についてまずグループの文脈でいうと、「チームワーク」をしながら課題を達成したり成長を発揮するためにコミュニケーションやリーダーシップが必要になります。
なのでその専門家としての立場からは、結婚生活をチームビルディングの始まりとすると、(夫婦というチームに対して)「チームワークしてますか?」という問いを投げかけたいと思います。
チームワークというと漠然に一つのもの、助け合いみたいなものというイメージを持ちやすいですが、実はそれだけではありません。しっかり情報を伝達するとか、足りないところを補うとか相手の考えてることを理解するというのもあります。
たとえば、プロスポーツでいうとわかりやすいです。そのチームのバランスがいいと優勝できるし、アンバランスだったりチームワークがよくなかったり、仲が悪いと一気に順位が下がったり成績が下がったりします。
つまり、チームワークが取れてないチームとチームワークがいいチームは成果が全然変わってきます。
夫婦もチームワークが崩れていくと夫婦仲が悪くなります。夫婦生活は「何もせず安泰」のように見えても、実はかなりのチームワークに対する努力の賜物が平穏な何事もない日々なのかもしれないと思えます。
夫婦という文脈になった瞬間に、家事は奥さんに任せて、旦那さんはお金を稼ぐ、となることがあります。かつてはそうだったかもしれませんが、今のように共働きだとすれば、家事は本当に奥さんに任せるのがチームワークのいいチームなのかと考えた時には、そうならないような感じがします。
「そういうことが夫婦では話し合われているのかな?」
と自分のことはちょっと棚に上げていますが、こういう専門家の立場からはそんな心配を思ったりします。
夫婦の未来「どうなりたいか」への向き合い方
―学びが大きいです。ありがとうございます。
チームをつくるために大切な考え方はありますか?
1つは「どうなりたいか」を2人で話し合うことができているかということです。「我々夫婦は今後どうなっていきたいのか」です。
それを考えることができたら、「現状の実現を妨げていてるものは何だろうか」と考えることもできます。
とはいえ、
「現状の夫婦生活でもできてることにはどんなものがあるか」
「できていることは、どんなことが追い風になっているからできているのか」
などと考えると少し見えてくるものがあったりします。
夫と妻、それぞれへの影響とチームワーク
もう1つは、夫婦生活をしている中で「どんな問題があるのか」をしっかりお互いに共有できるということがすごく大事なことと思います。
小さな問題でもしっかりと共有されていること。さらに、「その問題がそれぞれにどんな影響を与えているのか」と考えることももっと大切です。
たとえば、ゴミ出しが大変で「会社に行くのに旦那さんが下まで降りるならごみをもって行ってくれるだけでいいのにな」という問題を奥様がもっているとすれば、そこにどんな影響があるのだろうかということです。
持って行ってほしいという悩みが解消しないとか、ごみを持ち出す時間で他のことが出来ないとか、いろいろなことが起こることがあるわけですよね。
その問題と影響について夫婦で話がされていくと、「どうするのがいいのかな」に繋がると思います。
だから「どういう問題があるか」も大事で、そこがコミュニケーションされている夫婦こそが、日々の会話の中で役割分担もしっかりできていて「何か別に特別なことしてないよ」と言いつつも、すごくチームがワークされてるような感じがします。
そういう向き合い方ができるのではないかなと思います。
夫婦のチームビルディングの始め方
これらがチームでの問題に向き合い方の全てでもあります。チームの状態を見て選びながらですが、「どうなりたいか」もしくは「今、何が起きているのか」から始めます。
夫婦も深刻な問題がないのであれば、日々のコミュニケーションを通して「今、何が起きているのか」を会話で解決できるのが大事だと思います。コミュニケーションができていれば溝が深まることも起こりにくいでしょうし。
溝ができてしまっている夫婦に対しては、問題から入ってしまうと結構シビアなことが出てきて泥仕合になってしまうところはあると思うので、「元々はどんなふうになりたかったのか」から始められると思います。
―ありがとうございます。組織でも、夫婦でもまさにチームワークの大切さを改めて思いました。
今後の中里さんの展望を教えてください。
今の問題の向かい方は、実はリーダーシップで教わったことだけではなくてナラティブセラピーを始めたところも大きいです。
これまでリーダーシップを使って組織やチームの問題に向き合ってきましたが、「問題解決」ではうまくいかないことが叫ばれている日本社会において、ナラティブセラピーはすごく使えるアプローチだという風に思えるところが多分にあります。
「問題を解決する」とは少し違いますが、いかにしてその「問題に向き合えるか」というところを助けてくれるところでもあると思うので、それを使って今後企業やチーム、グループが抱える問題に付き合っていきたいと思っているところです。
―ありがとうございました。
中里さんの「対話の窓口」
https://taiwa-madoguchi.jp/
問題への向き合い方が変わるアプローチで「自分を・共に働く仲間を・組織を」イキイキとする組織を創りたい方は、ぜひ中里さん(なかさん)へお問い合わせください。