他者理解が広げる自分の器ーお互いをつなげて満たす共通点の見つけ方

価値観を超える専門家インタビュー他者理解4

専門家に聞く「価値観の違いを超える」関係性をつくるシリーズの第2回目にご協力下さったのは、障害者グループホームの管理者をされている中村雅人さんです。

企画詳細についてはこちら

他者理解のエキスパートとして、お仕事とご結婚経験からのお話を伺いました。

※今回、元のご家族への配慮から仮のお姿でのインタビューとなっております。

専門家プロフィール

中村雅人さん

・障害者グループホーム管理者

精神や知的障害を持つなど、コミュニケーション難度の高い方とも円滑に関わる他者理解のエキスパート。

目次

相手の世界を理解するとは?

よろしくお願いします。はじめに、普段のお仕事について教えていただけますか?

よろしくお願いします。
僕は、障害者グループホームの管理者をしています。

グループホームとは精神や知的の障害を持つ方の家のような場所で、そこでの日常生活に必要な支援をするところです。

ご飯やお風呂、苦手な人には洗濯や掃除の手伝い、病院に付き添ったり、役所関係の手続きを一緒にしたりとかもします。

僕は管理者としてそのスタッフのシフトを組んだり、入居者さんとお話をしたり病院や役所との調整などもしています。

同じ景色を見て楽しめること

―「他者理解」の観点から入居者さんとのコミュニケーションで大切にしていることはありますか?

同じものを見て、楽しめる感じでしょうか。

―楽しめる?!

なんでそれに困ってるんだろうとか
何が楽しいんだろうとか

そこが同じ考えで、同じ視点でわかったときに、同じ景色を見て感動できるみたいなところですかね。

その人のこれまでの経験とか、バックグラウンドみたいなものを知った上で、例えば目標とか目指している方向から「こういう経緯があってこれに頑張ってるんだな」と分かったり、成長が見れることも楽しいところです。

―同じ目線に立てることが感動にもなる。すごく印象的です。

自分の幅の広がりを感じること

たとえば、今関わってる知的の方は65歳ですが、僕の感覚では小学校3年生の男の子という感じです。お兄ちゃん遊ぼうという感じで、兄ちゃんって呼んでくれます。

子どもたちって無邪気に、素直に楽しんだり求めたりしますよね。

それと同じ目線で遊べたり、これが楽しみこれが嫌なんだということが、かかわりの中でわかってきます。

そうすると
そういえばそうだったなとか
こういう視点があるんだなとか

その人の気持ちになって考えると、今まで気づかなかったり忘れていたり、見えていなかったものが色付いて見えるような、自分の幅が広がるような感じがあります。

解釈を広げると見つかる共通点

―その人の気持ちになって「考える」というのは、「考える」だけではない印象を持ちました。

応用するというか、拡大解釈するという感じですね。

人には誰でもこだわっている部分が少なからずありますよね。その数が多く、気にするレベルが高く、それが障害になるのが障害者の方です。

でも、その方が持つこだわりに近いようなものを自分ももっているなとか、自分もこういう部分ってちょっとだけどこだわっているなとか、そういう風に解釈をする感じです。

たとえば、こだわりの部分でいくと、その人がこだわるようになった経緯とか、こだわることでその人が得られているものがあります。

だからそれにこだわってるのかなとか
こういう経緯でこだわるようになったんだな
何かこだわったことで嬉しかった
楽しかったとかがあるんだな、とか。

もしくは傷ついたことがあるからそれを繰り返さないようにこだわってるとか、そういう経緯があったりします。

自分も同じですよね。

自分も何か嬉しいことがあったから、もう1度その思いを体験したくてそれを続けているな。

嫌な思いをしたことがあるからそれを避けるために、それを繰り返さないようにこだわるというか気を付けているな、みたいなことをします。

その「こだわりポイント」にこだわることができると自分は楽になるし、邪魔をされると嫌な気持ちになるというのは、お互い一緒だと思います。

そういう風に思えると、
「それにこだわる気持ちが分かるな」とか
「それができるとスッキリするよね」とか
嫌な気持ちになることも理解できますよね。

―目の前の「こだわり」から視野を広げ、自分にもある点を見つける。そのためには、こだわりの裏にあるものや、こだわりに至ったストーリーに目を向けることが大切なんですね。

だから生い立ちというか、小学校、中学校、高校のときのことや、友達付き合い、家族関係、恋愛はどうだったかという話もします。

そうすると

「これが原因だったのかな」
「こういう経験をしてきたから、こんな考えになってるのかな」

とか、そういうものが見えてきたりします。

関係づくりは自分の弱さをオープンにすることから

―生い立ちなどを聞ける関係性をつくるために意識していることはありますか?

はじめに、自分から自分の弱さをオープンにしています。

自分が離婚している話とか、離婚して落ち込んだことがあるとか。

障害のある方たちなので、自分が鬱っぽくなったときがあったり、いじめられてたことがあるとか、そういう話もします。

そういう話の中で、相手も「自分もなんです」というときはお互いにそこを共感できて、その時はつらかったよねとか、その時はどうしてたのか、みたいな話がしやすくなります。

そのときは否定をせずに聴いたり、笑ったり、いっぱい試します。その中で、その人の喜怒哀楽のポイントというか、その人の幅を理解しています。

―関係構築のために心を尽くしつつ、客観性や冷静さもある印象です。どうやってを冷静さを保っているのでしょうか?

病気のせいなのか、性格なのかで見ている感じです。

病気の症状だったら、仕方がないというか。

本来のその人ではない、治療すると治まる部分での症状が言動に影響することは誰にでもありますよね。

たとえば、自分も含めて頭が痛いときは機嫌が悪くなるというのは誰でもあります。女性は生理のときにイライラしたりとかもありますよね。

それと同じような状態だと思うと、病気なのでしょうがないですよね。でも、性格悪い人は嫌です(苦笑)

出会ったことはありませんが、ひねくれていて本当に人を刺そうするような性格の場合は「この人無理だな」と思いますが、素直な方がほとんどなのでそこまで気にしていません。

僕は、骨が折れてもそこまで気にしなさそうです。

許容度が高いと思います。

―何が、そこまでの許容度にさせるのでしょうか?

入居者さんのうち、何人かは癒し系なんですよね。別の入居者さんの対応で疲れた後にでも、先ほどお話した65歳の方とワチャワチャしてると、癒されたり。

離婚して子どもと離れた分なおさら感じますが、子育ても同じですね。ずっと楽しいだけじゃなくて、大変な時期もあったりして。

大変だからこそ感情が入って、その分自分が成長できる。

そこに自分の幅が広がるという感じがあるからかもしれないですね。

夫婦の相互理解

お互いを満たすためにもちたい自分の余裕

―子育ての話がでましたが、夫婦関係についてのお話を伺ってもいいですか?

自分自身の離婚経験を振り返ると、仲が悪くなり始めたのはコミュニケーションが減り始めたことと、自分の考えは正しいというか、相手の理解を求めずにやっていたことがきっかけでしょうか。

まず先に相手を満たすということ

これを忘れず、相手の不安をなくしたり相手優先の後だと自分のやりたいことが受け入れてもらえて、より楽しく過ごせたかなとは思います。

利用者さんだったらちょっとした変化に気づいて、「今日何かあった?」とか「どうしたの?」とか声かけをします。

でも、そういう声かけもしなくて当たり前みたいな考えがよくなかったかなと思いますね。

話し合いも全然できてなかったし、してなかったなと思います。

―家庭内には、仕事ではやれることができなくなる魔法がかかるところがありますよね

ありますね(笑)

あとは、余裕も大事だと思います。

時間とお金との余裕があると、相手が喜んでくれると嬉しいので、いろいろできます。

でも、帰ってきてオフ状態になるのは余裕がないからなのかなと。

余裕があれば自然と相手の笑顔を見たりとか、話すのも楽しい気持ちになると思います。

僕だと、子供が2人生まれた後に稼がないとやばいと思って副業を始めて、夜も土日も副業に時間を費やして、話す時間を一切なくしてたんですよね。効率化重視で、何かあったらLineに入れておいて、と。

まずは自分の余裕を作るために自分を優先していいんじゃないかなと。その中で、コミュニケーションが取れて、お互いさまでできるといいですよね。

お互いさまの意味

お互いさまを考えるときに「同じ時間」とか「同じ金額」という基準で考えないことが大事かなと思います。

その人にとって何かしたいことや大事なものを叶えるのは1時間でいいかもしれないし、もう一人にとっては2時間欲しいかもしれない。

たとえば洋服を買うことでストレス発散できるという場合だと、ブランド物の服で満足できるならすごいお金がかかる。

でもユニクロでいいんだったら安くて済む。そのとき洋服ということは一緒でも、お金の基準は違います。

なので、それだと洋服=1万円分と決めてしまうとブランドが欲しい側は洋服を買っても満足できません。1時間も同じで、男性はゲームを楽しむ1時間、女性はその1時間で美容室に行きたいとなっても足りません。

その目的を達成するための時間をそれぞれ必要だよね、ということになります。

それぞれの軸の違いに合わせる調整ができるといいですよね。

―お互い様の基準は一万円、一時間という単純に外から見えるものではなくて、その人にとっての意味や、目的が達成できるための中身を気にかけることが大事だということ、納得です。

同じ願いと満たし方の違い

「満たされる」という表現をしますが、満たされると余裕が生まれると思います。

だから、満たすために、それぞれの人によって違う必要な時間、お金、物など、その人の価値基準というかバックグラウンドを理解することが大切かなと思います。

結婚してたときに元奥さんが100円均一のものを良く買っていましたが、全然お金がないときで、僕は100均の物でも無駄なものに使わないでほしいと思っていました。

でも、元奥さんとしては100均の物でも、かわいいものが部屋に飾ってあることで家事をしてるときにもちょっと気が紛れたり、楽しめることで満たされる部分があったのだろうなと思います。

元奥さんは、その100円を使って
「物を買うことで今を満たそう」

としていたんですよね。

僕は、その100円を
「節約することで今を満たそう」
としていたということだったのだなと。

お互いに「今を満たす」ことで未来を見ようとしていたのかもしれないけれど、やり方が違っていたということを理解できて、認め受け入れることができていたらまた違ったかなと思います。

離婚を経験したからこそ言えること

ここで言うのはあれですが、僕は離婚してもいいんじゃないかなと思います。本当に合わなかったら、です。

それでもまた求めるなら戻ればいいだけじゃないかなと。

離婚して思うのは、結婚した方が幸せ、離婚した方がかわいそう、離婚するとこうだからという周りの意見に寄せてしまって苦しんでいないかなと。

「自分はどうしたいのか」

そういう視点でもいいんじゃないかなと思います。

子どもがいると話が別になるかもしれませんが、喧嘩している状態が続く方が子どもにとっては幸せではないんじゃないかということも話が出て、今は確かにそうだなと思います。

離婚しても、子どもと仲がいいとか、自分が作り上げられる幸せがあるならどれも正解で。周りに合わせた正解じゃなくていいんじゃないかなと思います。

再婚して幸せになっている人もいっぱいいるので、それも正解かなと。

当時は周りからいろいろ言われることを気にしてしまう自分もいたので苦しかったですが、そのお陰で得たものもいっぱいあります。だから、今は何を言われても離婚してよかったといえます。

正直な話をすると、離婚してすぐのときは自分の友達とか家族にも「俺は悪くない」とか、相手を攻める言葉しか出てきませんでしたが、だんだんと違うな、と。

あれが原因だったな、あれが良くなかったなとかが出てくるようになっての今ですね。

他者との関わりと成長

他者理解からはじまる自己理解

―その内省力はどうやって鍛えられたのでしょうか?

多分、利用者さんと触れ合うことだと思います。

当たり前ではないことが多くて、僕の当たり前を押し付けると荒れるし、安定しません。

相手を理解しようと思うと、自分が自分のこだわりを押し付けているなとか、自分を変えていかないといけない状況になります。その度に自分の嫌なところを見つめ直さないといけなくて。

多分それで鍛えられています。

大変なんですけど、それが僕の好きなことでもあります。

過去の嫌な体験は成長の種

―その「好き」は深そうです。

器の大きな人や、年上でも謙虚で腰の低い方を見るとすごいな・素敵だなと思うので、そうなりたいなと。

逆に、ちょっとしたことでイラッとして怒ったり、人を下げたりしてる人を見ると、僕はそうはなりたくないなと思うので、自分のこだわりに目を向けることで成長できるのが好きという感じかもしれません。

―相手との関わりの中で自分を発見し、自分を成長させていくということですね。

そもそものきっかけは昔いじめられていたことで、笑った方がいじめられにくいとか、相手がどう言うのかを見るようになったことだと思うんです。

でも今はそのお陰で、仕事では人の変化に気づけたり、笑顔を褒めてもらえる自分もいたりします。

他の人も同じように、過去の嫌な体験がいい結果に繋がったりとか、その経験があるから上がっていくというようなことがあると思うので、人の話を聞きたくなるのかもしれません。

―他者と同じ視点にたち、他者を理解しようとすることが、結果的に自分を広げて成長することになる。中村さん深いお話をありがとうございました!

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