専門家に聞く「価値観の違いを超える」関係性をつくるシリーズの第4回目にご協力下さったのは、「夫婦のためのコーチング屋さん」『灯し屋』の、畔栁 倫平(くろやなぎりんぺい)さんです。(以下、りんぺいさん)
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今回は、夫婦の支援者でいらっしゃる、りんぺいさんが自ら歩まれた「家事スキル0から家事マスター夫」になるまでをお話ししていただきました。
家事ゼロから、奥様と肩を並べられるように(奥様公認)なっていくご経験をされた、夫婦支援の専門家のインタビュー、必見です。
りんぺいさん
自身の結婚当初のつまづきをきっかけに「夫婦向けのサービスを作りたい!」と考え、2023年に『灯し屋』を創業。現在は、「夫婦のためのコーチング屋さん」として、夫婦のキャリア形成や関係修復・改善をコーチングという手法を用いてサポートしています。
灯し屋WEBサイト
https://tomoshiya.com
Mio:りんぺいさんには、夫婦支援のお仕事でご一緒させていただく中で、「家事が全くできなかったところから、今では奥様同様に家のことを切り盛りできるようになった」ことを伺いました。
最近では男性からも、家事をしっかり担いたいのにうまくいかない…という悩みをよく耳にします。どうやって今に至ったのかは、男女問わず多くの方が知りたいところだと思います。
また、りんぺいさんは現在、夫婦のビジョンづくりを大切にされています。その前段になるお話でもあるということで、今日はまず「家事」についての歩みをぜひシェアしていただきたいと思いました。よろしくお願いいたします!
りんぺいさん:気恥ずかしい感じもしますが、よろしくお願いします。
以下、表記省略。
家事ゼロから家事マスターまでの歩み
家事嫌いだった結婚前
ではまず、背景からお話ししますね。
僕たちは、スピード婚で7月にお付き合いをスタートして2ヶ月後に同棲をスタートしました。その後、11月23日に入籍をしたので、お付き合いから結婚まで5ヶ月程度です。
家事に関してですが、僕は「全く家事ができない人」でした。
一人暮らしをしていたこともありましたが、後半はシェアハウスに住んでました。
シェアハウスと言っても設備が行き届いてる環境で、例えばお手洗いとか水回りの掃除は共益費に全部含まれるような形で、本当に自分のお部屋だけを自分で整えたり、料理をしたら後はキッチンをしっかり拭いたりとかお皿は洗いましょうね、という環境でした。でも、僕は全く料理できないので、食事は外食か、シェアハウスの他の人が作ったものをちょっともらうとか、そういう生活をしていました。
なので、洗濯はギリギリするものの、掃除の類は本当にしないで来た感じです。
そのときの僕の部屋は、本とか物で溢れて片付けられていないし、絶対彼女(今の奥さん)は部屋に呼ばないというか、見せたら別れられると恐怖を感じるほどでした。
ただ一度だけ、同棲のための引っ越しのタイミングで、彼女から「どんな状況でも、絶対別れたりしないから、引っ越しの手伝いをさせて欲しい。1回だけ見ておきたい」とめっちゃ言われてしぶしぶ来てもらって一緒に片付けをして同棲がスタートしましたが、それほど僕は本当に家事が好きではなかったんですよね。
同棲をきっかけに家事スタート
一方で「さすがに同棲をしたら、自分も家事はできるようならなければと思っていました」と思っていて。同棲したら自分もさすがに家事をできなきゃいけないよな、という感覚は、一応元々あったなと今思いました。
ただ最初からすぐに家事ができたかというと、全くそうではなくて。
ほったらかしの自分基準で生活をしてたので、最初は奥さんが何かとやってくれて、最初の方はそれを見ながら「ちょっとお手伝いをさせていただく」感じのスタンスで、教えてもらいながら洗濯物を干す・たたむとか、お皿を洗うとか、トイレ掃除をするとか、そうやって少しずつ吸収していきました。
なので自分の感覚でやっていたわけではなくて、奥さんありきでという感じでした。
ー家事をできるようになりたいという気持ちは元々おありだったんですね
そうですね。「全部は無理でも最低限はできなきゃ」っていう感覚はありました。
だから何かやろうという気持ちはあったんですけど、当時を振り返ってみるとそれだけで満足しちゃっていたところが、良くなかったところですね。
家事が”できる”ようになったのに?!奥様の爆発で
というのも、同棲をして最初の3ヶ月、結婚したての頃は、今思えば大体7割が奥さん、3割が僕という家事割合だったと思います。でもその頃の僕は、半分はやっていると認識していて「もう十分やってる」感覚に満足感を感じていました。
さらに、この時期に仕事の転機も重なりました。
入籍をしたのが2021年の11月なのですが、その2ヶ月後には6年間を過ごした会社を退職して創業期のスタートアップに移りました。なので、夫婦生活の立ち上げのタイミングで、会社・事業を立ち上げるという状態になってしまったんです。
ゼロから事業を作るというのは相当大変で、1週間のうち6日間働き、なんとか1日は妻との時間を捻出するといった状態でした。仕事での徹夜もしょっちゅうあり、家事や妻とのコミュニケーションは疎かになってしまったんです。
そういう感じだったので家事は僕の代わりに奥さんがやってくれることが続いて、転職から2か月経ったくらいの時にそんな強い口調ではないですけど「家事をもっとやってよ」(なんで私ばっかり)っていう感じで言われたんですよね。
でも僕は「いや、でも結構やってる方じゃない?」という感じで言い返したりとかして。でも、実際どうなんだろう?と思って、そのときに初めて「そもそも今、家事がどれだけあるのか」を全部1回書き出してみよういう話になってパーっと書き出していったら、僕がやってるのは2割ぐらいだったということに気づきました。
見えない家事の存在に気づいた衝撃
ー可視化されたんですね。
そうですそうです。
そのとき、「(自分は)これしかやってなかったんだ」という衝撃と、いわゆる「見えない家事」の存在に気づいたというか。
ルーティーンになっている洗濯物とか、お風呂洗い、トイレ掃除、ゴミ出しなんかは最低限分担できてたんですけど、それ以外のもの。例えばトイレの換気扇のフィルターの取り換え、排水溝の掃除、月1回ぐらいの不燃物のゴミ捨て、コンロの上の天板の油をとるとか、そういうものは全くやっていなくて、そのとき、「やってもらっている見えない家事」がこんなにあったんだと気づいて、「すみませんでした」ってなりました。
ー家事の全量を見て、気づきが生まれた。
僕の中では元々、家事0(ゼロ)からある程度出来るようになったので、「十分できてるじゃん、自分にしては」という感覚でいたんですよね。
でも、全体把握をしたら、自分ができてるのって本当にこれっぽっちでしかなかったんだと目の当たりにしたというか…。
「やろう」という気持ちがあって、「できる」ようになった。それゆえに、できてるものだけしか見えなくなってしまったんだと思います。
自分の見えている景色は一部でしかなくて、比較的ツブ感が小さいものがまだまだあるというのを理解をして、そこからまた夫の再教育がスタートする、じゃないですけど、そういう流れになりました。
家事を「やってる」と「やってたつもり」ズレの理由
ーなるほど!そういう流れを経ての今なんですね。大変示唆に富んでいるお話だと思いました。
一つ疑問です。満足感の要因は「できる」ようになったこと以外にもありそうですか?
家庭運営の一部の役割をちゃんと担えているという感じもあったと思います。夫婦の一つのピース、1/2を担う者として貢献できているとか、責任を持てている感覚にも満足感を持っていたと思います。
でも、家事の実際は僕の視点では「やってた」なんですけど、実際は「やってるつもり」でしたね(苦笑)
つまり「認識の世界」の話というか、僕の中では半分やってるつもりではいた、というのが、視野の広さや経験量からくるものか分かりませんが、「現実」に対して「認識」のズレがあったということで、厄介な部分ですよね。
見えていない分は、多分脳が遮断してるんですよね。だから、目の前で妻がやってくれているのに、ただの景色になってしまっていたんです。「全量把握」をやって本当によかったと思っています。
家事の全量把握から得た、家庭内「事実」の大切さ
ー全量把握の発想は、どこから湧いたのでしょうか?
それは、仕事だと思います。
当時、いろんな部門を横断して、入りから売り上げに至るまでがどうなっているのか、みたいなものを見るというか、全体を俯瞰してみるみたいなのを仕事上では多分習慣的にやってたんですよね。
それで今回の奥さんの爆発があったときに、家庭運営もある種の経営というかマネジメントと近しいものだよなとは思っていたので、実際にどれだけのものがあって、どこにどれだけ寄ってるのかっていうのを、一旦ちょっと事実確認をしたいっていう感じでした。
ーその発想に行けたのがすごいと思います。というのも、仕事だと普通にやることでも、家に帰るとそういう発想やスキルを持つ自分が「オフ」になるという話をよく聞きます。りんぺいさんはそうならなかったということですよね。
僕は自分で事業をやってみようと思うほど、ワークとライフはすごく重なるものというか、仕事がある種自分の自己実現・自己表現に繋がるところがあります。きっぱりと分けたいタイプの方は仕事的な発想は家庭には持ち込まない、というような仕事に対してのスタンスとかの違いはあるのかもしれないです。
ただ、夫婦でもやっぱりお互い見えてる景色が違うので、ちゃんと事実を知らないと感情的な「やってる・やってない」だと水掛け論になっちゃいそうだという風にも思って、「奥さんが悪い」とか、「いやいや俺が絶対正しい」ではなくて「ファクト」が家事においてもすごい大事だと思ったりしますね。
現在の家事分担方式
ー全量把握での気づきの後はどんな展開になりましたか?
最初は5割に近いぐらいまで、役割を分担するということをやりました。
最初は、あるタスク周辺に見えない家事がいっぱいあったので、それを次回やるときに僕が隣で見せてもらって、やり方を教えてもらうということをやってました。
それがある程度できるようになってから、同じタスクを曜日で分けるシフト制みたいにしたんですけど、やはり同じ家事を2人でやろうとすると、うまくいかなかったんですよね。お互いの基準感の違いというか、「本当はもっとここまできっちりやってほしいのに」とか「服を裏返しのまま干してるじゃん」みたいなことだったりとか、そういう食い違いみたいなものが生まれてしまったり。
あとは、後でやろうとは思ってるんだけど、夜になっても(担当の相手が)やらないから、「これ今日やってなくない?」みたいな感じでプレッシャーをかけられるみたいなこともあって、これはうまくいかんな、また1ヶ月後ぐらいに会議を開いてみたり。
そこで、分けられるものをお互いのものにして、「相手がやることには口出しをしない」という風な形で線引きをしました。
なので、いま僕はネットスーパーでの調達や洗濯まわりとかを中心にやって、奥さんがゴミを捨てたり洗面台やお手洗いとか洗ったりという形で分担してるんですけど、それだと多少さぼってもというか、不平等感みたいなのが出なかったりするので、その運用になってからだいぶうまく回るようになったように思いますね。
ーその分け方だと、やり方もタイミングや基準も自分の裁量で決められますね。
そうですね。それがすごい大きくて、運用方法としては今のところそれは大正解だったなっていうふうに思います。
思ったことを伝えられない…モヤモヤの伝え方
思ったことを伝える難しさと伝えやすくする方法
それから、家事にも絡むんですけど、奥さんがそのときに爆発してしまったのにはもう一つ理由があったと思います。
爆発したとき、「実は前々からちょっとモヤってた」とも言っていたんですよね。
家事の比率が私の方が多いとか、私ばっかりこれ気づいてやってるけど、これってどうなん?とか。
それは「思ったことを伝える」みたいなことが、当時は何かお互いすごい難しかったというか、うまくいってなかったことにも、奥さんが衝突を避けずに、爆発という感じでしたけどぶつかってくれたから気付けたところがあって、それはすごく大きかったなと思います。
そうは思いつつ、これまでもやっぱり伝え方が難しかったり、口頭だとどうしてもイライラして感情的になることもあったりしたので、その爆発をきっかけに交換日記みたいなものを持つようになりました。
毎日書くとかではなくて、すごいモヤモヤして、でも伝えられない!というときに、そのノートに書いてお互いの机に置いておく、みたいな運用をするようになって、よりお互いの本音みたいなものが伝えやすくなったのはあります。
今はほとんど書かなくなりましたけど、特に結婚したての時は喧嘩したくないというか、我慢すればいいか、っていう気持ちが強くなっちゃうところがあると思うので、伝えやすくする方法を工夫してよかったなと思います。
本音で繋がると夫婦は強くなる
ー伝えやすくする方法は大切ですね。同時に、りんぺいさんは本音でのコミュニケーションを大切にされている感じがしました。
そうですね。本音にもいろんなジャンルがあるような気がしてて、爆発が起きたときの本音は全く喜ばしいものではなかったなという気はします。
でも振り返るとやっぱりあれがあったから、一歩前に進めたというか、2人の関係としては1回ちょっとズーンと落ちてから、それを乗り越えた感覚もあります。
やっぱり、この爆発が本音で繋がるきっかけになったというか。ここからやっぱりお互いに、もっとこうしてほしい、みたいなことにオープンになったというか。何かを言うことにも言われることにも、だいぶ抵抗がなくなった感覚はあって、やっぱり夫婦が強くなったのは多分そこから先だったんだろうなと思いますね。
でも不思議なことにというか、当時はどちらかというと、僕より妻の方が不満を抱えることの方が多くて「こうして欲しいしてほしい」のリクエストが妻から僕にある感じだったんですけど、今はそこが逆転しましたね。
僕が起業をして、割と自由に使える時間が増えたこともあって、家事をしすぎるようになったところもありました。
逆転現象が起きて、逆の立場になるとやっぱり伝えることって難しいなって思いますね。また交換日記が何度か登場するみたいなシーンもありました。
ー伝えることを難しくさせる理由はどんなところですか?
関係が本当に壊れるみたいなことは多分ないとは思うんですけど、険悪な雰囲気というか、やっぱり平和で楽しい方がいいとも思うし、伝えることの怖さというのもありますよね。でも、皆さんもそうだと思うんですけど、僕はすぐに態度に出ちゃうんですよ。本質的に我慢ってできなくて、絶対伝わっちゃうんですよね。
「奥さんから何かモヤモヤしてる?」と聞いてくれることが増えて、話しやすくなったみたいなところもあって、そこはすごい助けられてます。
だから言える関係をどれだけ作れるかとか、我慢し続けずにやっぱり本音でぶつかるっていうことを、どれだけ根気よくできるかって結構大事だなって思います。
なるべく早めに「裸でぶつかる夫婦に」
ーご夫婦の歩みを振り返り、これからの方たちに伝えたいことなどは何かありますか?
ちょっとポジショントークっぽくなるかもしれませんが、改めて振り返ったときにやっぱり「最初が大事」と思います。
僕たち自身で考えたら、お話ししている爆発の件があってから立て直すみたいなところまで含めて多分交際してからちょうど1年ぐらいだったんですよね。
この最初の1年のタイミングで、夫婦で一緒に取り組む意識とか、しっかり分担をするとか、何か本音でぶつかるみたいなことが、整えられたから多分今があると思っています。
結婚をしたばっかりのタイミングは、いろいろ変えやすいというか、調整がしやすいタイミングだと思うんです。それを逃して、積み重なったものとか当たり前になったことが増えると、相手に伝えるとか、今までのやり方を変えるってどんどんパワーが要るようになってくると思うので、やっぱり最初が肝要だなっていうのを、今話しながら感じました。
それこそ、これは僕がインタビューをさせていただいたお子さんが3人いるご夫婦の話なんですけど、奥さんがワンオペみたいな感じだったんですよね。2人までは我慢できていたものの、3人目でもう無理!と爆発して、それをキカッケに旦那さんが今まで仕事のことしか見てなかったけど、やばいと気づかされて、そこから行動を見直したみたいとおっしゃっていたんですよね。
爆発は悪いことじゃないと思いますけど、爆発するのが遅ければ遅いほど、やっぱりそれを変えることのエネルギーってすごい大きくなると思うので、結婚する前後や、お子さんが生まれる前後とか、役割や夫婦の在り方みたいなのを調整していくことってすごい大事なことなんだろうなって思います。
それから、これも100組ご夫婦インタビューである奥様が「もっと夫婦は裸でぶつかるべきだ」と言っていて、印象的でした。
建前の仮面とか、鎧をかぶってたら夫婦なんて絶対うまくいかないから、早いことそれを打ち崩して、裸で本音でぶつかることを経験したほうがいいとお話しされていて、僕が経験したこともまさに一緒だなという風に思って、もう早め早めにぶつかりましょう、っていう感じに思います。
なので、我慢が行き過ぎちゃっている方には、もちろん旦那さんとの関係もそうですが、まずその自分との仲直りをしましょうみたいなことを夫婦コーチングではよくお伝えさせていただいています。
それはやっぱり自分で自分を我慢させる形で、自分の本音を大切にできていないというか、自分とうまく付き合えてないっていうことだと思うので、まずは自分の思いをちょっと大切にしてみるっていうところですよね。
ー夫婦は裸でぶつかるべきだ。いい言葉ですね。灯し屋さんの夫婦・カップルのビジョンづくりの取り組みにもつながりそうですね!
「まさにそうですね!ビジョンづくりも、もともとは僕たち夫婦での経験をもとにしたものなのですが、本音で話すきっかけになったと思います!」
ーありがとうございます!次回はビジョン編として、またじっくりお話聞かせてください!ありがとうございました。
▼りんぺいさんの活動のご紹介
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